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平安時代の憎めない盗賊の話

 今回は、平安時代の「根は悪くない」盗賊の話を2つ紹介します。

源博雅と盗賊

 平安中期、醍醐天皇の孫で臣籍降下した源博雅という公卿がいました。博雅は音楽の名人で、博雅三位(はくがのさんみ)と呼ばれていました。

 ある時、この博雅の屋敷に盗賊が入り、博雅は危険を避け床下に隠れます。

 盗賊が出ていった後に床から出た博雅が家中を見ると、家財すべて持ち出されていたのですが、戸棚に篳篥一つが残されていたので、博雅が手に取りそれを吹いたそうです。

 すると、出ていった盗賊が遠くでこの音色を聞き、なんと戻ってきたのです。

 盗賊は感激した様子で、

「今の篳篥の音色を聞きますと、誠に感慨深く、心が洗われたようです。盗った品は全てお返しします。」

と言って、全て置いて出ていったといいます。

灰を食べた盗賊

 ある屋敷に盗賊が入ったのですが、家の主人がそれに気付きます。

 主人は物陰に潜みながら、帰り際に討ちとめてやろうと盗賊の様子を窺っていたところ、盗賊は少々の物を手に取って袋に入れるのですが、全部は取らずに帰ろうとします。

 そして帰り際に、灰が入った鉢が棚に置かれているのに気付くと、それに手を伸ばして灰を掴み食べだしたのです。

 灰を数口食べた盗賊は、何を思ったのか盗んだ品を元に戻し立ち去ろうとします。

 待ち構えていた主人は、盗賊を組み伏せて縛り上げたのですが、この不可解な行動の意味が分からなかったので問いただします。

 盗賊は、

「私は元々、盗み心などありませんでした。しかしここしばらく食べ物が無くなり、ひもじさに耐えかねてここに入ってしまったのです。

 そのうちに棚に粉が入れてある器があり、麦粉と思ってとにかく食べました。あまりに飢えていましたので、はじめは何の粉か分かりませんでしたが、口に運んでいくうちに灰であることが分かってやめました。

 食べ物ではありませんでしたが、幾分ひもじさがやんだので、盗み心も収まり、物を元に戻して出ていこうとしたのです。」

と言ったのでした。

 憐れんだ主人は、この男に

「今後もそんなに困ったときは、我が屋敷に来て言え」

と言い、財物まで持たせてこの男を帰したのでした。

 さらにその後も主人は、この盗賊の男のことを気にかけ、度々生活の様子を尋ねていたそうです。

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